「我愛羅」

触手の形をした砂がゆっくりと頬を撫でて、ナルトの緊張はいよいよ高まった。生命の危険に晒されている、我愛羅の右手が拳を作ればナルトは死んでしまう。

「なあ我愛羅、出せよ」

暗い砂の殻に閉じこめられたナルトは言った。からからの喉が砂を吸い込んで痛んだ。
我愛羅がなにをしたいのか分からない。自分を傷つけたいわけではないようだが、殺される可能性は十分にある。

「我愛羅」

再三の呼びかけにも返事は無い。もしかしたら聞こえてないんじゃないか。我愛羅の気持ちが分からない。緊張は泣きたい気持ちに変わっていって、ナルトはずるずると床に座り込んだ。尻が冷たくて、尚更みじめになる。

今日は任務が無かった。だからゆっくり寝て、昼近くに起きた。着替えている最中に突然我愛羅がやってきて、しかもドアを砂で突き破ってきて、ナルトは上半身裸で我愛羅と会った。何も言えなくて黙っていたら何故か砂に閉じこめられて光を奪われた。

「があらぁ」

泣く、と思ったその瞬間、我愛羅の声がした。


「死にたくないのか」


冷たくて透明な、静かな声。脅し文句でもなんでもない、死にたくないのか、という問いかけ。ナルトの涙腺は見事に破壊された。涙が一気に溢れ出た。

砂が音を立てて崩れる。目の前が急に明るくなって、滲んだ視界にナルトは我愛羅を見た。壊れたドアを背にした我愛羅は、無表情で幼子のように泣く男を見下ろした。

「あ、うぁ、が、らぁ」

ぼろぼろと涙を流して、ナルトは我愛羅を呼んだ。泣きながらただ悲しくて仕方がなかった。死ぬほど悲しかった。

「ああ、すまなかったな」

傷一つないガラスのような透明さ、うつくしさを持つ我愛羅の声。
それはとてもきれいだ。あらゆる不要なものを取り去って、音だけを伝える。我愛羅の声には抑揚や感情が無く、それ故にうつくしいのだ。

「ドアは弁償する、泣くな」

ナルトは涙を拭いて鼻をすすりあげた。悲しみが諦めに腐ってゆくのが分かった。

「うん」

「すまなかったな」

「うん」

ドアも砂も謝罪もどうでもよかった。我愛羅のうつくしさはナルトを打ちのめす。涙はすぐに止まった。またひとつ光が消えた。それは二人でいる限り、きっと永遠に消えたままだ。

ナルトは両腕を伸ばして我愛羅の右手を捕まえ、その甲に口付けした。血に染まった白い手は、罪の鎖に縛られて幸せを掴めない。うつくしい罪を吸い取って自分のものにしたら、きっと我愛羅はナルトを許さないだろう。ナルトだって我愛羅が許せないのだ。




どうして二人でシアワセになれないのか、なあ