白くて滑らかな美しい肌や失望の海でもしっかりなくさないでいる瞳の中の光やまるで乾いた血の色のような赤茶けた髪が好きだ。たくさんの人間を殺した手や残忍で冷酷な性格や結局のところひどく臆病な彼が好きだ。彼を造形した全てに感謝すべきだ、彼を孤独にしたもの全てを愛すべきだ。



寄生児



「ぬるいな」

「我慢しろってば」

風邪引くぜ。そう言ってなるとは狭くて小さい浴槽の中にすっぽりと収まっているがあらを立ったまま見下ろした。があらはなるとが浴びせるシャワーを目を閉じて受け入れている。があらのシャツとスパッツはびしょびしょに濡れていて、こいつ帰りどうすんだよとか思いながらもなるとは黙ってシャワーを浴びせてやるのだった。があらの気まぐれでわけのわからない命令を、なるとはけっこう好きなのだ。

今日はシャワーを浴びせろだった。風呂まで案内したらお前が浴びせるんだと言って、来たままの格好で空の浴槽に入り込んで栓を閉める。早くしろと急かすのでなるとは慌ててシャワーを持った。捻りだしたぬるま湯にがあらは目を閉じた。

「こうやっておかしなことを続けていくうちに異常が普通になって最終的になるととがあらはひとりの人間になりました。」という想像はなるとをひどく興奮させる。不可能なことも可能なところから攻めていけばいずれは、とばかばかしい期待をしている。期待はなるとの鼓動を早まらせ、興奮は勃起を伴ったりもする。性的な興奮だ。なるとはがあらと融合することに性的興奮を感じる。融合は性的な意味ではないのにだ。

ともかくシャワーを持ったなるとは異常ながあらに興奮した(もちろん性的な意味で)。我慢がならなくなってしゃがみこむ。浴槽に全身を収めているがあらの格好は、羊水の中の胎児を思わせた。なるとの右手首とがあらの頭は浴槽の縁と接触していて、なるとは右手にシャワーを持っていて、シャワーとがあらの顔との距離はとても近くなった。圧力を上げた水流にがあらは痛そうな表情を作ったのだがそれがなるとの下半身をどうしようもなく刺激した。

浴槽にはがあらの腰まで水が溜まっている。なるとはシャワーを放り出して体を乗り出した。ごつん、シャワーヘッドとタイルのにぶい衝突音。膝立ちになってがあらの唇をかすめ取った時にその目が開いた。

「おい」

じゃば、と音を立ててがあらの腕が水から出てなるとの顔を押し退けた。胎児誕生、または中絶。

「シャワーを浴びさせろ」

「なんで」

「雨が無いからだ」

なるとはがあらの細い腕を取ってそこにも唇を寄せる。

「おい」

天気にまで振り回されるがあらをなるとは愛おしく思った。晴れが続いたことを神サマか誰かに感謝した。