【最中のこと】

くすくす。小さく笑いながらそいつは俺の首筋を撫でた。肌と肌が吸い付く感触はどうしても慣れないがしかしどうも気持ちがよかった。俺は何かを言おうとして何をも言えないことに気付き、まぬけに開いた口を閉じた。そいつはまた、囁くように笑った。




一月始めのとあること




【はじまりのはじまり】

「びっくりした?」

そいつの声はよく響く。俺は黙ったまま腰に回された腕を指で叩いた。他人の個室のドアをノックも無しに入ってきていきなり抱きつく、礼をわきまえない無邪気なガキ。のふり。そいつはすぐに体を離して、にっこりと笑いかけてきた。あえて無視する。

「こんどは三日くらい泊まれるんだぜー」

風の国からの依頼が来てさ、無理言ってやらしてもらってんの。喋りながらそいつは俺の襟首を掴んで引き寄せ、一瞬つぐんだ唇を唇に押しつけた。人と人とが向かい合うのに正当な距離を取り戻して俺がそいつの顔を見ると、歯を見せて笑う。口付けは一瞬のことで、その事象は無かったことだと言われれば俺は納得してしまうのだろう。

「なあ」

白い歯と歯の間から舌が覗く。ああ、と心の中で呟きながら目を閉じた。それは単なる呼びかけの返事、失望の嘆き、期待に満ちた歓声、どれであろうか。どれも正解のようであり、全て間違っているようでもある。




【思考回路はショート寸前(でももう会えてる)】

自分を理解できないのは非常に気分が悪い。そいつに抱かれていると何も分からなくなってくる。とろとろと体が溶け出すような感覚は恐怖にも近く、つまるところオレはセックスが嫌いだ。ただ肉体は素直に快感を覚える、気持ちがいい。そう、きもちいい。そしてなにより、そうしているあいだはそいつが俺の体をしっかりととらえているのだった。だから、おれ、は、




【おめでとうありがとう】

「テマリの姉ちゃんから聞いたんだけど」

そいつは俺に背を向けて服に袖を通している。俺は息を整えながら裸でその様子を眺めていた。


「お前、もうすぐ誕生日なんだって?」



そ い つ の せ な か 。



とても鮮やかに今日一日そいつといた時間が蘇った。何も言えないわけじゃない。言うことなんてなんだっていい。ああ、と声を出すこともできた。一字だけの言葉なのだ簡単だ。セックスが嫌いだなんて、嫌いだと思いこんでる思いこもうとしているだけなのかもしれない。俺はだめだ。だめなものだ。そいつは、それを知っているのだ。
俺はそいつの言葉の続きを聞いたら死んでしまうかのように思ってそれを恐れた。服を着たそいつの背中に砂を向けてそいつを殺してでも阻止しなければならないと考えた。


「少し早いけど、おめでとう、な」


   かあさんぼくをうんでしんだかあさんぼくがうまれたのをおめでたいというんだそいつはそいつのなまえはね


俺は足下でくしゃくしゃになっているシャツを拾ってそれを着た。そして息を吸った。

「ありがとう、うずまきナルト」

うずまきナルトが振り返りも顔を見せもしなかったことが幸いだった。ちゃんと背中から視線を外せてよかった。
(了)




時間軸が一定してなくて読まれる方はわけが分からないんじゃないかな。書いてるこっちも混乱気味でしたし。ごめんなさい。意味不明じゃーと思いましたらどうぞ叱咤をお願いしますどうにかしたいと思います。
ちなみに【思考回路は〜】というのはセーラー●ーンの歌の一節からもってきました。その節の後に「今すぐ会いたいの」と続くのです。セー●ームーンの歌を知らない方ごめんなさい。この歌どれくらい有名なんでしょうか。